
ポジティブ感情日記とは?小規模試験で分かったことと限界
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つらい経験を深く書こうとすると、かえって気持ちが重くなることがあります。そんなとき、「無理に苦しい出来事へ戻らず、今ある肯定的な経験に目を向ける」という別の選択肢があります。研究ではPositive Affect Journaling(ポジティブ感情日記)と呼ばれる方法です。
ただし、広く効果が確立した治療法ではありません。中心となるのは、疾患があり、軽度から中等度の不安症状を抱える成人70人を対象にした小規模な試験です。そこで見られた変化も一部の指標に限られます。何を試し、何がまだ分からないのかを分けて読むことが大切です。
「好きなことを書く日記」とは違う
この方法では、肯定的な内容へ目を向ける問いがあらかじめ用意されます。自由に一日を記録する日記とも、つらい経験を扱う表現的筆記(expressive writing)とも同じではありません。2018年の論文に掲載された問いの例は、「何に感謝していますか」「誰かがあなたのためにしてくれたことは何ですか」の二つ。研究では七つの問いを使いましたが、論文には全項目が載っていません。
したがって、感謝日記とは一部が重なるものの、両者の境界を厳密には引けません。論文で公開されていない五つを推測して「研究と同じ七問」として紹介することもできないのです。感謝を書く研究には別の試験や比較条件があり、ひとまとめには扱えません。
借りられるのは「肯定的な経験に焦点を定めて書く」という枠組みです。七つの問いの完全な再現や、効果の仕組みまで証明されたわけではありません。
70人の試験で分かったこと
2018年、ペン・ステート大学のスマイス(Smyth)らは、JMIR Mental Healthに無作為化比較試験を報告しました。参加者は何らかの疾患があり、不安は軽度から中等度の範囲。重度の不安、自殺リスクが高い人、直近1年に精神科へ入院した人は対象外でした。
70人は、ウェブ上でポジティブ感情日記を書く群と通常ケア群に35人ずつ割り付けられました。指定されたのは1回15分、週3回、12週間です。ただ、実際に完了した回数は最大予定数の平均47.8%で、時間の長さも個別には正確に測れませんでした。提出された文章は研究スタッフが確認しており、「誰にも読まれない私的な日記」を検証した試験でもありません。
通常ケア群と比べると、1か月時点の不安、1か月と2か月時点の心理的苦痛、早い時点のレジリエンスで差が見られました。一方、抑うつ、生活満足度、社会的支援の大半の指標、肯定的・否定的感情では有意な群間差がありません。すべての心の状態がよくなったのではなく、限定された指標に有望な結果が出た、と読むのが妥当です。
肯定的な経験へ意識を向けることで、その経験を見つけたり思い出したりしやすくなる——これは考えられる説明の一つです。しかし、この試験は注意の変化などの仕組みを切り分けていません。「なぜ効いたのか」までは分かっていないのです。
表現的筆記より向いている人は分かっている?
表現的筆記は、つらい経験について考えや感情を掘り下げる方法です。ポジティブ感情日記は、肯定的な内容へ焦点を絞ります。指示の違いは明確ですが、どちらが誰に必ず合うかを、この70人の試験だけで決めることはできません。
Smythが1998年に発表したメタ分析は、表現的筆記13研究の複数の健康指標をまとめ、全体として効果を報告しました。ただし、その後の大きなレビューでは効果はより小さく、ばらつきもあります。この結果だけでは、単一の仕組みも、表現的筆記やPAJの一般的な優位性も示せません。詳しくは日記と不安の研究を扱った記事で整理しています。
書く指示によって合いやすさが違う可能性はあります。しかし、感情を避けやすいかどうかだけで、二つの方法を選び分けられる段階ではありません。
Stanton、Danoff-Burgらの2002年の試験は、初期乳がんの治療を終える女性60人を、感情表出、肯定的な意味の発見、事実記載の4回の筆記に割り付けました。心理面の結果は測定されたがん関連の回避によって異なり、身体面は別のパターンでした。PAJを試した研究ではなく、回避を一般的な選択基準にはできません。Laiらの2023年の系統的レビューとメタ分析も複数の集団における肯定的筆記を扱ったもので、PAJという一つの統一プロトコルの検証ではありません。
RichelleとAleaの研究は、コロナ禍初期の変化を思い出し119人の大学生を、肯定的筆記、自由筆記、非筆記に割り付けました。2018年の臨床PAJを再現したものでも、共通する仕組みを証明したものでもありません。RuiniとMortaraの2022年のナラティブ・レビューは筆記技法を整理した論考であり、PAJの独立した追試ではありません。また、表現的筆記で苦痛が増す人に肯定的な方法が特に適していることを示すものでもありません。
つらいことを書くと苦痛が増す人にとって、肯定的な問いは取り組みやすいかもしれません。ただし、どんな書き方でも思いがけず苦しい記憶に触れることはあります。負担が少ないと感じる可能性と、安全が保証されていることは別です。
自分で試すなら、研究とアレンジを分ける
研究に合わせるなら「1回15分、週3回、12週間」ですが、別の長さや頻度と比較した試験ではありません。最適な回数や最低限必要な時間を示す数字ではなく、参加者の実施率も高くありませんでした。短くして試すこと自体はできますが、それは自分向けのアレンジです。
保管方法も自分で決めます。研究ではスタッフが文章を確認しましたが、個人の日記では、紙や端末、クラウドのどこに置くか、誰が触れられるかを考える必要があります。研究で読まれたから公開してよい、あるいは効果には完全な秘密が必要だ、といった結論は出せません。
まずは論文で示された二つの問いのどちらかを使えます。
「今、何に感謝していますか」
「誰かが自分のためにしてくれたことは何ですか」
たとえば「同僚が困っていた作業を手伝ってくれた」「帰り道の風が心地よかった」と、場面を一つ選んで書く。ここから先に挙げる「最近うまくできたこと」「安心できた場所」「人とのつながりを感じた瞬間」などは、肯定的な方向へ考えるための編集上の提案であり、未公開の研究項目を再現したものではありません。
同じ問いを繰り返すか、話題を変えるかにも正解はありません。惰性に感じたら別の問いを使い、まだ意味があるなら同じ問いへ戻る。特定の順番やローテーションが結果を生むとは検証されていません。
治療や危機対応の代わりにはならない
この試験は、重度の不安、自殺リスクが高い人、最近精神科へ入院した人を含んでいません。急性の悲嘆やトラウマ、心の危機を処理する方法として設計されたものでもありません。症状が生活へ大きく影響している場合は、医師や心理職などの専門家へ相談してください。書く方法をケアの中でどう位置づけるかは、日記とメンタルヘルスの記事で、補助的な方法と治療の違いは日記と不安の研究を扱った記事で整理しています。
注意:書いていて圧倒されるほど苦しくなったら中止し、支援を求めてください。自分を傷つけるおそれがある、自殺を考えている、安全を保てないという場合は、日記に頼らず、地域の緊急窓口や危機支援へ今すぐ連絡してください。Find A Helplineでは、175か国以上の確認済みの危機支援窓口を探せます。
この方法は、数ある選択肢の一つです。表現的筆記や感謝を書く習慣へ足す場合も、「週に1、2回加えれば効果が上がる」とは分かっていません。別々に試し、自分の反応を確かめるほうが誠実です。続け方については日記を習慣にするガイドも参考になりますが、2、3週間を最低期間とする根拠はありません。
この研究が支持するのは、決められたプログラム全体の可能性です。「15分を週3回」が最小有効量だとも、思考が明晰になる仕組みが証明されたとも言えません。